スーパーサイエンスハイスクール(SSH)

SS課題研究論文要旨集(立命館慶祥高等学校3年)

2013年度

1. 宇宙線ミューオンの観測

宇宙線は、宇宙から絶えず高速で地球に降り注いでいる原子核や素粒子である。地球大気中に降り注いだ宇宙線が、大気を構成する窒素や酸素などの原子核と衝突し核反応を起こすことで新たに生まれる素粒子の一つがミューオンである。今回は,霧箱を用いてミューオンの飛跡を探し出すことを目的として実験を行った。その結果,飛跡の様子や曲率からミューオンと思われる飛跡を見つけ出した。今後,その飛跡をアルファ線などと比較してミューオンであるかどうか確かめる必要がある。

2.スターリングエンジンの開発

スターリングエンジンは理論上カルノーサイクルに最も近い熱変換効率を持つ熱機関である。しかし、大型のスターリングエンジンや逆スターリングエンジン以外ほとんど実用には至っていない上,スターリングエンジンの効率を向上させようとすると大型にせざるを得ない。そこで、小型のα型スターリングエンジンの出力評価を行い,小型のまま効率を上げる方法を検討した。

3.自作モデルロケットと高度測定

自作でモデルロケットを3機製作した。表計算ソフトエクセルで,その自作ロケットの予測値を算出した。また,自作モデルロケットで打ち上げを行い,一点測定法とビデオ解析という方法で高度の測定を行った。

4.自然放射線の測定

3.11複合災害によって福島原発から漏れた放射線が2年たった今でも人々を危険にさらしている。しかし、放射線の危険性について具体的に知る住民は少ないだろう。そこで人々に放射線の具体的な危険性をしってもらうために、市販の放射線測定機を使用して身近な場所の放射線を測定した。また、日本科学技術振興財団が貸し出しをしている測定機『はかるくん』と市販の測定器と比較し、市販の正確性を調べる。その結果、札幌圏内は東北地方より数値は低く、市販の測定器は『はかるくん』と比べて約3倍近くの数値を示した。これより、札幌圏内は比較的安全であり、市販の測定器はあまり正確とは言えない。

5.月面地形データ解析 -月基地候補地を考察する-

月には溶岩チューブというかつて溶岩が通った通り道があらゆるところに存在する。そこは大気の存在しない月面で起きる微小隕石の衝突や放射線被曝から身を守ることができる。また地下にあるため月面での昼夜の300度に及ぶ温度変化は約-20度に保たれる。現在に至るまでアポロ計画やルナーオビダーから得られた画像をもとに多くの研究がされてきたものの溶岩チューブの発見には至らなかった。そこで宇宙研究開発機構(JAXA)は月の起源から進化の解明を目的としたデータ取得をすると共に月周回軌道への投入,軌道姿勢制御技術の実証を行うことを目的として,月周回衛星“かぐや”を打ち上げた。その結果,“かぐや”から得られた画像から溶岩チューブの入り口とみられる縦穴を発見した。その後インド宇宙研究機関(ISRO)が“チャンドラヤーン1号”を打ち上げた。そこから得た画像に溶岩チューブの天井が崩壊して形成されたと考えられるリルが発見された。今回の研究では“チャンドラヤーン1号”によって発見されたリルをより詳しく正確に研究することのできる“かぐや”のデータを元に再検討を試みた。その結果,“チャンドラヤーン1号”の画像データの解析結果と同様の結論が得られた。

6.風力発電 -磁石を用いた風車-

現在,日本の風力発電は垂直軸型風車よりも水平軸型プロペラ風車が主流である。しかし,垂直軸型風車は自由度の高い設置条件を持つため,発電量や起動トルクの大きさの問題点を除けば,水平軸型風車よりも効率的であると言える。そこで,垂直軸型風車での問題点を改善するべく,風力発電機の研究を行っている道下忠男氏の助力を受け,発電性能向上を図った垂直軸型風力発電機の風車部分の新デザインの研究と起動トルクの軽減を図った回転軸の開発研究を行った。

7.バナナの加熱による糖度変化とデンプン粒の変化 -アミラーゼによる糖化作用-

バナナを熱すると甘くなることがテレビ番組で紹介されていた。そこで温度変化によるバナナの糖度変化を,基礎資料を得る目的で研究した。またデンプンが分解されて糖質が増えるということを根拠に,温度変化後のデンプン含有量の変化から,糖質の増減を調べた。その結果,温度変化による糖度変化はおよそ1.0~2.5%であることが分かった。さらに温度変化によるデンプン含有量の増減が確認できた。

8.酸性雨 -酸性雨の測定-

今,世界中の環境問題の一つとして,酸性雨が挙げられている。酸性雨とは,大気汚染物質が雨水に取り込まれて降る雨のことである。その酸性雨が降ることで,地球上でさまざまな問題が生じており,日本でもその問題に悩まされている。そこで,私たちが住んでいる地域やその近郊では,どのくらいの酸性度の雨が降っているのか調査した。pH濃度を計測したところ,地形や立地条件によってpH濃度が違うことがわかった。また,pH濃度と風向の関係を調査したところ,南から風が吹いている日のpH濃度の方が高いことが分かった。

9.不凍タンパク質 -野菜からの抽出-

不凍タンパク質は,北極や南極に生息する動植物に固有の物質と考えられてきたが,日本国内で捕獲される魚類の中にも不凍タンパク質が含まれることがわかった。不凍タンパク質の産業利用には,十分な生産量の確保が課題となっている。そこで,安価で大量生産しやすい原材料から不凍タンパク質の抽出をするべく,かいわれ大根由来の不凍タンパク質抽出方法に習い,他の野菜や果物から抽出することができないかを研究した。その結果,新たに5種類の野菜から抽出することができた。

10.藍染め -染色と色落ちについて-

私たちの着用する衣服は多様な色に染色されているため,布本来の色ではない。そこで,染色の中で最も古いといわれている藍染めについて研究した。この研究では主に5種類の布(綿,麻,絹,レーヨン,ポリエステル)の染色と様々な漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム,過酸化水素,二酸化チオ尿酸)を使用して色を落とすという2つの実験を行い, これからの洗濯方法や洗剤などの開発に生かそうと考えた。その結果,染色ではレーヨン>絹>麻>綿>ポリエステルの順に染まりやすいことが分かり,色落ちについては次亜塩素酸ナトリウムが強力な漂白剤であるということが分かった。

11.媒染剤と発色作用について -媒染剤の特徴-

染色とは本来は水に溶ける性質を持つ色素が,洗っても退色せずに繊維に吸着する現象である。染色には媒染剤が使用されることが多く,媒染剤により発色,繊維や染料との相性などに違いが見られる。そこで複数の媒染剤,繊維,染料を使って染色し,媒染剤による発色作用や,繊維や染料との相性を比較検討した。

12.カビの性質 -成長速度および種間競争法則の解明-

糸状菌類(俗称カビ)には種ごとにさまざまな性質がある。成長速度に優れているもの、種間競争に優れているものさまざまだ。今回の研究目的はカビの形質からどのように増えていくか,また種間競争に優れているものはどのような形質なのかなどのカビ全体からわかる法則を推測することである。そのために,まず,外生菌根菌から採取したカビと,空気から採取されたカビそれらをランダムに3点で対峙実験をし,成長速度に優れているものと種間競争に強いものと分けた。成長速度に優れているものは大シャーレに1点で培養し,一日ごとに写真を撮って成長速度を算出し,種間競争に強いものは中シャーレに種間競争に強いもの同士を対峙実験し,それらの間の形状を見てカビの強弱を測定した。さらに最初の対峙実験でクリーム色の物質とカビの変色が見られたので,それらの正体を探究した。

13.再生 -ガザニアクイーンにおける組織培養系の確立-

現在多くの植物が組織培養に成功しているがガザニアクイーンの組織培養は確立されていない。そこで,本研究ではガザニアクイーンを植物ホルモンであるオーキシンとサイトカイニンの濃度を調節し,カルス誘導のための最適培地組成を検討した。また,カルス誘導させたガザニアクイーンの個体をシュート誘導させ個体再生させることに成功した。

14.トドマツ林における外生菌根菌の共生関係-人工林と自然林との分布比較-

北海道の代表的針葉樹のトドマツ根系には,多くの場合外生菌根菌が感染している。トドマツは外生菌根菌と共生関係を結ぶことによって養分や水分の吸収が助長され,成長を促進させている。しかし,外生菌根菌の生理的な機能が明らかにされる一方で,外生菌根菌群集の決定要因の知識は未だ蓄積されるにとどまっている。そこで,外生菌根菌群集構造の知見を広げるために,森林内の林分構造の差に注目し,外生菌根菌群集構造を比較した。その結果,人工林と混交林とでは混交林の方が人工林より外生菌根菌のタイプ数が多いが,群集構造の類似性には差がないことが明らかになった。

15.オサムシ科昆虫の研究 -オサムシ科昆虫と周囲の環境における相関関係の考察-

近年,環境を指標する生物として,地表性の生物であるオサムシが注目されており,日本でも研究がすすんでいる。しかし,北海道は本州とは環境が大きく異なるにも関わらず,北海道に生息しているオサムシの研究がほとんど進んでおらずまだ外部環境との関係が解明されていない。そこで,今回我々は北海道においてのオサムシと周囲の環境の相関関係を解明すべく,野幌森林公園で調査を行った。

16.火山災害への対策

火山災害に対する防災対策は,多くの活火山を有する日本では大きな課題である.今回は防災対策に有効であると考えられるハザードマップの改善とどのような構造が火山被害を抑えることができるかを研究した.任意の流体を用いた疑似実験を行い,現ハザードマップの問題点・改善の見込みがある点を確認し,泥流による被害の規模の縮小に有効と考えられる形を特定した。