スーパーサイエンスハイスクール(SSH)

愛を歌い踊る~鳥たちのメッセージ~

理学研究院 准教授 相馬 雅代先生の講演内容を,生徒が取材し記事にしました

相馬先生

鳥の歌行動,求愛ディスプレイ行動,母鳥の繁殖戦略,母性効果,兄弟間競争などの研究からコミュニケーション行動の機能と進化の解明を目指す。

鳥たちの踊り

〈音楽に合わせて踊る〉
鳥が音楽を聴いて踊っていることがあり,それは鳥たちが自発的に踊っていると推測することができます。音楽のビートに合わせて踊る場合もあります。これらの中には何かしらの特別な訓練を施していなくても踊ることが確認されているものもあります。また鳥だけでなく象も踊るという報告もあります。 このような“踊り”の特徴は,音楽のビートに同期して行動があらわれるという事にあります。科学的には,音のビートの周期性と“踊り”の動きを比較して,両者がランダムに生起しているのではなく,同調して起こっていることをもとに判断します。 飼育下で鳥がこのような踊りをするのがなぜかは分かっていません.しかし,野生下において儀礼的で複雑な“踊り”のような動きがみられるのは,多くの場合求愛のためだと考えられています。

〈求愛のために踊る〉
例えば,マイコドリの一種は一羽のメスに対し,数羽のオスが並列し,息の合った踊りをメスに披露することで求愛する珍しい習性を持っています。しかしその多くのオスの中からメスと交尾をすることができるのはたった一羽だけなのです。またオスの選び方や,なぜオスたちが並列して踊るのかといったものはいまだに解明されていません。

〈つがい相手に踊る〉
求愛のためではなく,メスとつがいになった後の抱卵中のメスに対してオスが踊る鳥もいます。これはメキシコマシコという鳥で,マシコ類の鳥は北海道にも生息しています。この行動は,卵をあたためているメスをあたかも応援しているかのように見えるとても珍しい行動ですが,実際にどのような機能があるかはまだ分かっていません。
ここまでの事例の多くはオスによるものでしたが,メスが踊らないわけではありません。ブンチョウやブンチョウの近縁種?のセイキチョウはメスも踊ることが確認されています(?近縁種とは分類学上かなり近い種類のことです)。これらの鳥では,巣の材料(わらなど)をくちばしにくわえ,頭を上下させたりジャンプしたりしながらさえずる,という行動が,オスからメスに対してだけでなくメスからオスに対しても見られます。これはオスメス間で行われそれによりつがい間のコミュニケーションかつ絆を深めるためにする行動だといわれています。ブンチョウの場合には,さらに,さえずり以外にくちばしを鳴らして音を出すという行動も頻繁にみられます。
先ほど述べたマイコドリも自ら音を出すことがあります。音を出している時のマイコドリはただ羽を広げているようにしか見えませんがスローで見てみると実は鈴虫と同じように,羽を高速で打ち付け音を出しています。つまり発声しているのではなく発音しているのです。これも踊りの一つであり求愛ディスプレイ行動の一種とみなされています。 ブンチョウやセイキチョウのように,つがいが一緒になって踊っているのは,それがつがい間のコミュニケーションとして働いている可能性と,もう一つはそのつがい間のコミュニケーションを例えば縄張りを分けたりするとき,他者から見て,「あ,あそこにはもうつがいがいるんだな」ということを見つける可能性があります。
映画などでデュエットをする場面でそこには男性パートと女性パートがあり,そこできちんと合いの手を入れられることは「君にちゃんと注意がいってるよ」ということを表していて,そこでさっと自分のパートをすっぽかしてしまった場合にはほかの人に注意がいってる可能性が高かったり,あるいは縄張りの外から見ている鳥からしてみると「あのつがいダメそうだな」ということになるわけです。仲良く踊っている場合「私たちは仲がいいんだよ」「無敵だよ」というようにお互いに対する忠誠心のシグナルにもなります。
踊りはコミュニケーションとした場合とても重要な役割を果たしているのですが複雑な踊りになってくると分析が難しく研究もまだまだというところです。
これまで確認されている限りでは,同種の鳥の中では振り付け,動作の要素は基本的には共通です。ただし,オスとメスが踊る場合には阿吽の呼吸で踊れるかどうかというところがかかわってくるので,その動作に対してきちんと返せるかどうかという意味で個体差とかつがい間の違いが出てきます。
鳥たちの踊り

鳥たちの歌

〈発声学習〉
さえずる鳥は音を聴いて学ぶということを行っています。若鳥は,成熟した個体(たとえばお父さん)のさえずりを聴くことで,その特徴を覚え自身で発声できるようになります。そのため,飼育下ではお父さんと息子のさえずりが非常によく似たものになる,ということはよく知られています。さらに,お父さんと息子のソナグラム(音を可視化する装置)を見てみますと,くちばし音の位置が似ているところに出ているためくちばし音の位置もお父さんのマネをして学んでいるのかもしれません。
鳥類には,発声学習(鳥の聞いて学ぶ能力)があることが確認されている分類群が3つあります。発声学習は多くの場合,繁殖の文脈において発声されるさえずりの獲得に寄与します。発声学習によって,音のバリエーションが豊富にある,いろいろなさえずりができる鳥は,求愛や繁殖の際に有利になるとされます。具体的には,鳴き方がいいと,より多くのメスから注目を浴びることができます。そして,「上手な」さえずりのオスとつがったメスは,より重い卵を産むというデータがあり,きっとそこからは健康な雛が育つでしょう。
鳥種よって発声学習能力は異なり,自種の発声だけでなく人間の言葉もマネできるような九官鳥のような例もあれば,生まれ持った自種の「テンプレート」にあう限られた音しか学習できない鳥もいます。前者の場合,さえずりのバリエーションが多く,モノマネ(いろいろな音)のレパートリーを発声できるオスはメスにモテるというデータがあり,繁殖成功の確率が高くなるといわれています。後者の場合,モノマネの精度が高かったり,周波数の幅や速度の面で,パフォーマンスの高かったりすることが上手な鳴き声だと言われています。
さえずりの上手下手は生まれつきではなく,親などの成熟個体から,リズムのバリエーション,音域の広さ,などを学び練習した成果です(聴いて覚える→不明瞭な発声→完成)。さえずりの獲得は人間の言語獲得とも類似した特徴が多く,そのメカニズムや機能について多くが解明されつつあります。ですがコミュニケーションには,音だけではなく,表情,身振り手振り,ダンスといった視覚情報が重要な役割をなしています。つまり,聴覚コミュニケーションだけでなく視覚コミュニケーションにも注目する必要があるでよう。
例えば人間があくびをすると他の人に移ります。このような行動の同調性は,人間以外の動物にも確認されており,「親密さ」のような社会的要因との関係が議論されています。このような視点から鳥のダンスやさえずりを考えることは,「真似する」「呼応して反応する」といった振る舞いがどのようにコミュニケーションとして機能をしているかを考えることにつながるのではないでしょうか。
これらからわかることは,鳥と人間とは分類上へだたっていますが,コミュニケーション能力の進化を考える上で興味深い相似があるということです。

高校2年 高校2年 舟橋隆一,小林巧昂,中野琴美,赤倉大聖,仲野美登里