スーパーサイエンスハイスクール(SSH)

世界の始まりとなる宇宙

理学研究院 教授 羽部 朝男先生の講演内容を,生徒が取材し記事にしました
羽部先生

宇宙のカタチを考える

今日は宇宙のカタチをテーマに,宇宙の始まりや私たちがどのようなものからできているのかをお話しできたら,と思います。
(スクリーンに示した)光る点々は宇宙に広がる銀河で,このような銀河には星は1000億個存在し130億年かけて作られています。宇宙にはこのような銀河が多数存在しています。この宇宙のカタチについて,2人の研究者は次のように考えました。
1人目はニュートンです。ニュートンは,「宇宙は夜空に見える星の集まりで有限な大きさであると考えると,太陽は宇宙の中心にないと重力により引かれるはずだが,太陽は動いていない。」等のことより宇宙は果てしなく広がっているという説をいいました。
2人目はアインシュタインです。アインシュタインはニュートンの説からさらに納得のいくように,重力が非常に強い時にも使え,物質の分布や時間と空間を統合して扱える理論である一般相対論を説きました。

アインシュタインと一般相対論

光の進み方は物理現象の基本であり,私たちは意識で時間を感じています。実はこういった意識は化学反応によってコントロールされていて,この化学反応の一番基本は光の伝わる速さです。この光の伝わる速さが影響され変われば,おのずと時間の進む早さも変わっています。(時間というものの前に光があるから,光が変われば時間も変わり,時間は光に影響されること,を特殊相対論といいます。) こういうものは例として,重力によっていろいろなものが影響されるということと,重力はとてつもない力を持っていること認識してもらいたいです。
物理において,強い重力場(重力の作用する空間)を扱うときは一般相対論を扱わなければなりません。そして,宇宙全体はなぜか強い重力場(引く力が強い、加速度が大きい)なので,一般相対論(超重力下で使える理論)を用いなければならなりません。そこで,アインシュタインは一般相対論を宇宙に当てはめると宇宙は静止できないことに気づきます。宇宙は収縮するか膨張するかのいずれかなのですが,宇宙は静止していると思っていたアインシュタインは,宇宙項というものを式に加えて宇宙を静止させました。ですが,アインシュタインがこの式を発表したあとの1929年にハッブルという人が,宇宙が膨張している証拠を発見したのです。

このグラフはハッブルが膨張を発見したときのもので,アインシュタインはこの発表を聞き,人生最大の過ちと語ったという逸話まで出て,宇宙項の存在は捨て去られるものとなりました。それからアインシュタインの死後,科学がどんどん進歩していった後,宇宙が膨張しているのは確かだが一定には膨張していないことがわかりました。加速膨張しているのです。そうすると膨張させている力はなにかという疑問が出てきます。そしてここで舞い戻ってきたのが宇宙項です。アインシュタインの宇宙項は宇宙にとって欠かせないものだったのです。現在,この宇宙項は科学者たちからダークエネルギーと呼ばれ,研究が進められています。

アインシュタインは宇宙を静止させようと思っていました。
しかし,宇宙はとても不安定で,ちょっと押してやると広がってどんどん加速していきます。ダークエネルギーって何だと思いますか。実はアインシュタインが入れた宇宙項は宇宙を加速膨張させる役割があり,それを今ではダークエネルギーと呼んでいます。最初に宇宙が膨張していることが発見された時には,アインシュタインは宇宙項を入れたことは間違いだと言いました。しかし最近は,アインシュタインは正しいらしい,ダークエネルギーは宇宙にあるのではないかと言われています。

宇宙の観測

宇宙はダークマターが原因で揺らいでいるのです。 ダークマターがないと,我々は存在できないし宇宙の中に星とか銀河もない状態にしか進化できない,そういうことが分かっています。ダークマターとは今もまだ正体がよく分からないのですが,重力だけは担うことができる,そういう変な物質です。誰もまだ直接見た人はいませんが,たとえばこの空間にも秒速200キロくらいで飛び回っていると。我々の体もどんどん突き抜けているのですが,なんの悪い影響も与えない。重力以外になにも影響を与えませんので我々には感じないのです。見たことないのに,あるだろうと。そうです。なければいけない,ということから,あることになるのです。
宇宙にある普通の物質,私たちの体を作っているような水素とかヘリウムや窒素などの質量をエネルギーに換算すると,宇宙全体のわずか4.6%しかありません。 ダークエネルギーによってこの宇宙は加速膨張しているらしい。加速膨張させるためにはこれくらいのエネルギーがいるよということです。ダークマターとダークエネルギーは両方見えないというだけで,全く違うものなのです。ですが,まだ研究中で詳しいことはまだわかっていないのです。
去年のノーベル物理学賞はヒッグス粒子の発見ですが,あれでも宇宙の最初は説明できないのです。ヒッグス粒子によく似ていますが,スカラー場というものを考えています。正体はよくわからないのですが,ヒッグス粒子によく似たふるまいをするものと考えています。スカラー場の状態によって様々な宇宙の状態がありえたのです。その中でうまく膨張できたのが今の我々の宇宙という考えです。このスカラー場により宇宙が急激に膨張するのですけど,膨張するときにスカラー場のゆらぎが引き延ばされて,それがダークマターのゆらぎとして表れているように考えています。 宇宙の始まりの状態のエネルギーがスカラー場です。
例えば光のエネルギーの塊で,光が何かに衝突したらその光がパチーンと弾けて電子と陽電子が生まれたりします。エネルギーの塊というのはある性質をもったエネルギーの塊を生み出せます。スカラー場もそんなようなものと考えていますが本当のことはよくわからないのです。 宇宙の観測

シミュレーションによる研究

ダークマターがなかったら,宇宙の中で銀河や星を作ることはできません。 これは宇宙の膨張スピードに比べて重力が足りないために,一生懸命引っ張ることができないためです。直接ダークマターは観測できませんが,光が曲がることから限りはありますが調べることができます。また銀河のでき方を研究することにより,ダークマターの性質を調べることができます。どうするかというと,いろんな距離にある銀河を観測する訳です。いろいろな時代の銀河が観られますから,その変化の様子を調べます。それと一緒にシュミレーションをします。スーパーコンピューターでダークマターを仮定してどんなふうに進化するのか,それからどんなふうに今の星ができるのかを研究します。これは一つの例で,大元は世界トップレベルの計算機である「京」コンピューターを用いて計算をしています。この「京」コンピューターを使って一億光年ぐらいの大きさの宇宙空間によってダークマターがどのように進化するか調べます。その中から一部だけ取り出してもっと詳しく研究します。
このシュミレーションはダークマターしか入っていませんでしたが,それ以外の物質も入れて計算していくと物質がどんどん集められていくので,やがてエネルギーが外に放出してうまく冷えることができます。そうするとそれが星になります。星ができる過程は非常に複雑でうまく計算できないので,かなり単純なことをやります。それからこんなふうに銀河は成長していきますから,ある程度飛び散ったあとで互いに衝突し合ったりします。大きい銀河になり損ねた小さな銀河です。こういうものが衝突したりして現在にいたっているのです。いかにも本物らしいムービーですが,詳しく調べると実際の銀河と合わないところがあります。結局,星のできかたがよくわからないということが一番の問題なのです。

まとめ

宇宙の形を考えたことが始まりでした。 ニュートン,アインシュタインは,宇宙の形を考え,それはもう果てがない宇宙であると。その考えが,いつの間にか宇宙には始まりがあるという考え方にたどりついたのです。

高校2年 高校2年 本間七虹,尾澤颯太,佐藤康揮,中村亮太,吉川恋門